ピアノを弾くということは、楽譜を丁寧に読み解き、指を繊細に動かし、生まれる音を注意深く聴くという、まさに五感を使った素敵な体験の組み合わせです。この豊かで多面的な体験をさらに深め、音楽との出会いをより意味のあるものにするために、私たちにできることがたくさんあります。
「この曲をどんな音色で奏でたいかな」「どのような表現をすれば、もっと心に響く素敵な音楽になるだろう」という好奇心が湧いてくると、自然と音楽への興味も深まり、新しい発見の喜びも生まれていきます。このような前向きな気持ちがあれば、少し難しい部分に出会っても「こうしてみよう」「あのように工夫してみよう」という創造的な楽しみに変わっていきます。しかし、その気持ちが弱いと、楽譜を見て「難しそうだな」と思ったまま表面的に弾いてしまい、音楽本来の深い楽しさや感動を見出せないことがあります。
「子どものペースを大切にする」「無理なく楽しむ」という基本的な考えは確かに大切な視点です。しかし、お子さまの気持ちに寄り添いながら、時には「少し挑戦してみよう」という前向きで積極的な姿勢を育むお手伝いも必要なのです。
例えば、ピアノの練習中に「その部分が難しく感じるのね」「どうすれば、もっと良い演奏になりそう?」といった具体的で建設的な質問をすると、お子さまの中で「そうか、難しい部分だからこそ、よく考えて練習しなければいけないんだ」「先生も、いつも考えながら丁寧に弾くように言っていたな」という大切な気づきが生まれます。そして、その前向きな気持ちが継続することで「もっと素敵な演奏にしたい」「新しい曲にも挑戦してみたい」という豊かな意欲が自然と育まれていきます。
意欲を持つことが、現代社会において非常に難しくなってきているように感じます。
特に子どもたちは、日々の生活の中でゆっくりと過ごす時間が極めて限られています。彼らには、ただ静かに考えをめぐらせる時間が必要なのです。脳が自然と活性化する「デフォルト・モード・ネットワーク」を働かせる機会を、もっと大切にしてあげたいと思います。このように音楽は、十分な練習を重ねることで、自然と自分の感性のままに演奏できるようになり、「デフォルト・モード・ネットワーク」が活性化されるのです。
子どもはどうしても、新しいことに取り組む際に「やりたくない」「めんどくさい」「難しそう」といった消極的な感情を抱きがちです。これは子どもの感情コントロールがまだ発達途上にあり、即座の満足や楽しさを求めてしまう傾向があるためで、発達段階においては自然な反応とも言えます。しかし、だからこそ意識的に練習を重ね、継続的に取り組む習慣を身につけることは、子どもの成長において非常に重要な要素となります。
親は自分自身に「~しなければいけない」「~すべきだ」といった固定的な考えや過度な期待を持たなくてもいいです。そうした重圧を自分自身に与えるのではなく、子どもの気持ちに寄り添って柔軟に接するやり方もあるんです。命令口調ではなく、「どう思う?」「どうしたい?」といった質問を通して、子どもの考えや気持ちを引き出してみる。「やりたくない」「遊びたい」という返事が返ってきたときは、さりげなく「楽しくできればいいんだね」と前向きな方向に導いていきます。このような関わり方によって、子どもは自然と主体的に考え、自ら学ぼうとする姿勢を身につけていくのです。うまくいかないときもあって大丈夫。新しいことができたときは、親御さん自身も「よく頑張ったな」と自分をほめてあげましょう。